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知能は遺伝だという誤解とそれを助長する人々

 まずは以下の記事をご覧下さい。

[橘玲の日々刻々]「気分のいい嘘」と「不愉快な事実」のどちらを選ぶ? 

 どのような感想を抱かれたでしょうか。私にとっては感想以前の問題でした。それはこの記事があからさまな“科学的”誤謬と煽情と正視に堪えがたいほど醜い政治的意図によって満たされているからです。


●知能の80%という虚言

 前掲の記事のように知能の80%は遺伝子によって決まっていると言われたとき、その本当の意味をどれだけの人が理解できるでしょうか。
 たとえば、マヨネーズの80%は油で出来ていますと言われたら、その単位はおそらく㌘だろうからマヨネーズが5gあったらそのうち4gは油なのだろう、と大方正しく理解できるに違いありません。だが知能の場合は? 
 
 知能の単位として一般に使われるのはIQです(IQにも精神年齢と実年齢の比を用いて算出する方法と同年齢間での標準得点を用いて算出する方法の二つがありますが、おそらくここで取り上げられているのは後者でしょう。その程度の言及すら行われていない元記事は極めて杜撰なものです)。さて、ではマヨネーズと同じ理解の仕方で、「個人のIQ全体を100%とした場合その80%は遺伝子由来であり、残りの20%だけが環境由来なのだ。従って遺伝子的に劣る人物がどれだけ努力したところで20%を挽回するのが限界なのだ」と理解するのが正しいのでしょうかか。答えは、断じて否です。
 そもそもIQがどういう数値であるかを知っていればこの言説の不可解さは明白でしょう。IQとは単なる知能検査の得点ではなく、その標準得点です(標準得点とは自身の得点が集団内の中でどの位置にあるかを示すものであり、平均点と同じであれば標準得点100となります。そして自分が集団のうちで上位およそ1割5分に属するなら標準得点115以上、逆に下位およそ1割5分に属するなら標準得点85以下となります)。標準得点は知能検査の得点とは全く違う相対的な位置づけのことです。このような相対的指標の80%、それはいったい何を意味しているのでしょうか? わかるわけがない。こんな粗悪な記事からは何も理解することはできないのですから。



●双生児研究と知能への遺伝要因寄与に関する本当の理解 

 実際のところ知能に対する遺伝子の寄与度を調べる目的で双生児研究が行われる場合、それは一卵性双生児同士の知能指数のバラつきと二卵生双生児同士の知能指数のバラつきの差を比べることで行われます。具体的には、例えば一卵性双生児同士の集団のIQのバラつき平均が5であった。同様に二卵性双生児同士の集団のIQのバラつき平均が10であったとしましょう。この場合一卵性双生児同士の場合のほうバラつきの差が5小さいことになります。この5という差がどこから来ているのかを調べるのが本当の双生児研究です。
 もし全ての研究対象双生児がペアごとに全く異なった環境で育ったなら(全く異なったという前提も現実的には困難ですが)、この5の差に環境要因はまったく含まれず遺伝的要因が100%寄与していることになります。一卵性双生児は遺伝子が100%一致し、二卵性双生児は遺伝子が50%一致しますから、その50%の遺伝子差がそのまま100%IQのバラつき差5になって現われたと考えられるのです。
 しかし、全部あるいは一部の研究対象双生児がペアごとにほとんど同じ環境で育ったとした場合、一卵性双生児集団と二卵性双生児集団間のIQのバラつき差5には環境の要因が含まれている可能性があります。なぜなら同じ環境で養育されたためにIQが近似したという環境要因も十分考え得るものであり、一卵性双生児集団のほうが二卵性双生児集団よりもIQのバラつきが5小さかったのは、遺伝子の影響ではなくペア同士で育った環境がより近似していたからだという可能性が残るからです。
 実際には双生児でありながら全く異なった環境で育ったペアの集団だけを対象として十分な標本数を揃えつつ研究することは非常に困難であり、現実的には後者の環境要因を考慮に入れざるを得ない方法をとることになります。そのためには環境要因を数値評価するなどの過程を経た上で複雑な統計分析を行うことになり、その結果得られたのが80%という数字でしょう。
 さて、ずいぶんと迂遠になりましたがそれは次のことを理解して欲しかったからです。知能の80%が遺伝であると一般に報道される研究は、決してある個人や親子間の知能の80%を直接研究したものではなく、一卵性双生児集団と二卵性双生児集団の間のわずかなバラつきの差のうちのどれだけが遺伝によるものかを研究したものなのです。それは知能の80%という言葉を人が突きつけられたときに感じるショックよりも遙かに遥かに小さな差を対象とした研究です。あなたの親兄弟とあなたとの知能が80%一致しているわけでは決してありません。
 さらに、これが特定の母集団を対象とした統計的研究であるということも忘れてはなりません。つまり、研究対象となった双生児が置かれていた環境の場合には集団間のIQ差への後天的影響が20%に留まったというだけの話であって、違った環境ならば違った結果が現われる可能性があるということです。もちろん統計学はそのような批判を避けるために有意検定や標本集団の偏りに細心の注意を払いますが、それでも、そのような“統計的”事実を個人や別の集団に当てはめることは極めて危険を伴う行為です。
 さて、双生児研究から「知能における遺伝の影響が80%以上」という曖昧な言説を引き出すことが人を謀る虚言であることはわかってもらえたと思います。双生児研究を正しく解釈するなら「遺伝子一致率100%同士の人間のIQ差と遺伝子一致率50%同士の人間のIQ差に違いがある場合、その違いを統計的に解析すると80%が遺伝的要因によるものである」となります。それ以上でもそれ以下でもありません。


●本当の本当の問題

 正直に言ってこのような誤解は悪意のあるものないもの含めてありふれています。本当の意味を理解していないまま自分に都合のよい研究だけ取り上げるのも、統計的な研究を個人や特定集団に当てはめるのも、科学的研究の考察の部分をあたかも結果として得られたものであるかのように言い立てるのも、ネットマスコミあらゆる場面であふれかえっている言説です。
 冒頭の記事に関して言えばその真偽に関する問題は1:“科学的”真実であると述べながらもその出典どころかAuthorさえ明らかにしていない。2:Wikipediaを軽く洗っただけで反証となる論文が出てくる。3:IQを題材として行われた双生児研究を知能という曖昧な言葉に一般化してしまっている。4:そもそも双生児研究の結果を正しく理解している気配すらない。まあ、可愛いものですね。
 それでも私がこのような記事を書いたのは、冒頭記事が莫大な科学的、論理的間違いの上に積み立てられているにもかかわらずその政治的意図を隠そうともしていないからです。既読の方にはとうにお解かりかと思いますがかの筆者は要するに、「教育格差は教育機会の不平等からではなく遺伝的な原因から生まれている必然でありその格差を是正しようとするのは無駄である。そのような格差是正の要求は教育関係者が公金投入欲しさに行っている偽善である」と、教育制度の不備や社会的不平等を誤解された科学によって正当化するばかりか、自分の無知を棚に上げて他者を糾弾すらしているのです。
 彼女の言にしたがえば、こうなります。今現在低い教育しか受けていない人物はその遺伝的資質に問題があるのであり、その人物の子供も遺伝的資質に問題があるのだから低い教育しか受けられなくて当然である。そしてその子供も。さらに教育環境が知能に大きな影響を与えないのは“科学的”に立証されているので教育機会の平等を求めることは許されない。
 これはどのような社会でしょうか。新自由主義に支えられた資本主義社会ですらありません。明らかな階級社会です。吐き気を催すような邪悪と言わずして何と言いましょうか。
 もうこれ以上このような邪悪のために筆を走らせたくはありませんが、最後に冒頭記事のタイトルにケチをつけて終わりましょう。

 『「気分のいい嘘」と「不愉快な事実」のどちらを選ぶ?』

 明らかに筆者は知的な平等の前提に基づく教育機会均等こそが「気分のいい嘘」であり、遺伝的形質による競争奨励こそが認め肯定すべき「不愉快な事実」だと言いたいのでしょう。いや、まったく実に稚拙ではありませんか。「不愉快な事実」を受け入れることが本当に正しいことだなどと、強者の論理が肯定されるべきだなどと、そのような中二病的全能感に支えられた道徳観をよくもまあ開陳できるものです。
 ですがしかし、このような言説は強者の論理の側に与したい人々を惹きつけるための手口としてこの筆者のような人物に繰り返し用いられ続けています。気を付けてください。あなたが平等を放棄するとき無意識に自分が強者の側に立って「不愉快な事実」を受け入れている人士だと思い込んでいませんか?
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